糖尿病内分泌内科部長 永井 聡
国民病といわれて久しい糖尿病。2020年12月時点で、糖尿病が強く疑われる成人は約1,196万人、その予備軍が約1,055万人、合計2,251万人が糖尿病またはその予備軍であると推計されています。一方、症状がさまざまで気が付きにくいとされるのが、ホルモンの異常によって生じる内分泌疾患。代表的な疾患として甲状腺疾患や原発性アルドステロン症が挙げられますが、きちんとした診断がつかず、原因不明の体調不良に悩まされている患者さんも少なくないといいます。
糖尿病と内分泌疾患の最新治療を提供する同科の取り組みや実践する医療の特色、日々の診療に対する思いなど、日本糖尿病学会認定糖尿病専門医・日本内分泌学会内分泌代謝科専門医の永井聡糖尿病内分泌内科部長にお話を伺いました。
「患者中心の診療」をモットーに掲げ、日本糖尿病学会認定糖尿病専門医を中心に、専門的な知識・経験に基づいて糖尿病患者さんの生活指導を行う糖尿病療養指導従事者や看護師、管理栄養士、薬剤師、理学療法士など多職種によるチーム医療を徹底しています。医師に対しては言いにくいことがあっても、チームの誰かには心の内を伝えてもらえるかもしれない。医師だけでは捉えきれない患者さんのニーズも、チームであたれば汲み取ることができて、それが患者さんの満足のいく診療につながります。患者さんとの信頼関係を深めながら、食事、運動、服薬などさまざまな角度からアプローチし、全力で患者さんを支えています。2021年7月現在、糖尿病を専門とする医師6名と専門スタッフが年間約1,800人(2020年1月〜12月)の外来患者の診療にあたり、教育入院・減量入院も年間100人(2020年1月〜12月)ほど受け入れています。
糖尿病を治療することで、全身の臓器におきる合併症を予防することが期待できます。末梢神経障害、糖尿病性網膜症、腎症が3大合併症といわれ、患者さんの生活に大きな影響を及ぼします。また、狭心症や心筋梗塞、足潰瘍や壊疽など、動脈硬化を基盤とする病気も起こりやすくなります。当科では院内の他診療科──循環器内科や腎臓内科、心臓血管外科、眼科などと密接に連携しながら糖尿病合併症の予防・早期発見と早期治療を含めた継続的な全身管理を行う体制が整っており、それも当科の糖尿病診療の大きな強みとなっています。
下垂体や甲状腺、副腎などで作られるホルモンの異常による病気を対象としています。
下垂体は、脳から垂れ下がる形をした脳の小さな器官です。小さな下垂体にもさまざまな腫瘍ができます。腫瘍の種類や大きさ、症状の程度などにもよりますが、一般的には脳神経外科で摘出手術するケースが多いのですが、術後に「下垂体機能低下症」という病気を発症する場合があります。この病気にかかると激しい疲労感や食欲不振など原因不明の体調不良に悩まされ、特徴的な症状がないためなかなか診断がつかないことも多いです。当科では、各種ホルモンの血液濃度を測定し、どのホルモンの分泌量が減少しているのかを確認する検査などから病気を正確に診断するよう努めています。ホルモン補充療法などで症状が改善した症例も着実に積み上げています。また、成人になっても手足や鼻、舌などが大きくなる「先端巨大症」、顔に脂肪が沈着して満月のように丸くなるムーンフェイスや多毛などの症状が特徴的な「クッシング病」についても過去の症例の蓄積から迅速な検査・診断が可能で早期の治療開始につなげています。
甲状腺はのど仏のすぐ下にある臓器で、新陳代謝を活発にするホルモンなどを分泌します。代表的な病気には、甲状腺の機能が異常に高くなり、ホルモンの分泌が過剰になる「バセドウ病」と、これとは逆に、甲状腺に慢性の炎症が起きて機能が低下する「橋本病」などがあり、それぞれ症状は多岐にわたります。当科では甲状腺エコーなど甲状腺疾患診察に必要な検査機器を取り揃え、治療においても放射線物質を使った高度な「アイソトープ治療」を実施。国の厳しい基準を満たした認定施設に認められ、バセドウ病の診断や治療などに威力を発揮しています。
腎臓のそばにある副腎から血圧を上げるホルモンが過剰に分泌され、高血圧になる病気が「原発性アルドステロン症」です。若い人でも発症し、生活習慣とは関係なく高血圧になります。国内の高血圧患者の約1割、約200〜400万人がこの病気であると考えられています。当科では循環器外科と連携して、副腎静脈から血液を採取するという高度な精密検査を行なって、病状に合わせた適切な治療に結び付けるよう努めています。手術は泌尿器科の負担の少ない腹腔鏡手術が可能です。
糖尿病の治療は、生活習慣の改善を軸に、食事療法と運動療法、薬物療法を組み合わせて行います。その組み合わせ方は、患者さんの病状や生活環境によって一人ひとりまったく異なり、血糖値などで治療効果を確認しながら細かく調整していくことが重要です。近年、こうしたオーダーメードの糖尿病治療をサポートする機器として、24時間1〜2週間にわたって連続的に血糖値を測定できる検査(持続血糖測定)が登場し、当科でも積極的に活用しています。この装置は上腕に取り付けたセンサーにスマホや専用リーダーをかざすだけで血糖値を把握することが可能で、定点的な血糖値のみでなく1日の血糖変動も把握できることから、患者さん一人ひとりの傾向に合わせて、より精度の高い治療が目指せるようになりました。患者さんの自己管理に役立っているほか、介護する方の負担軽減にも効果を上げています。
発症頻度の低い難病や難治例も含め多くの内分泌疾患に対応できるのが当科の特色の一つですが、近年注目しているのが成人の「成長ホルモン分泌不全症」です。成長ホルモンは、身長を伸ばすホルモンとしてよく知られていますが、それ以外にも重要な働きがあります。体にある物質をエネルギーとして使えるような物質に変えていく働きです。私たちが生きていくためには、体内でエネルギーを作ることが欠かせませんが、成長ホルモンはその過程で大切な役割を担っています。成長ホルモンは、子どもだけでなく大人になってからも必要なホルモンなのです。自覚症状は疲労感、体力や集中力、意欲の低下、感情の起伏が大きくなる、うつ状態などがみられます。原因は下垂体や下垂体周辺の腫瘍、あるいは下垂体の手術や放射線治療、頭部外傷などですが、原因不明なものもあります。診断は血液検査で成長ホルモンがどれくらい出ているのかをホルモンの分泌促進薬を投与して調べます。治療は不足している成長ホルモンを週6〜7回注射して補っていきますが、治療効果がはっきりと表れる方が多く、症状の改善が望めます。
症状がさまざまで他の病気と間違われやすいのが内分泌疾患です。長引く不調や、治療を受けても症状がよくならないなど、内分泌疾患であることに気付かずに苦しんでいる患者さんもいることと思います。
早期発見・治療のためには、内分泌疾患に対する正しい知識を持ち、自ら「もしやホルモンに異常があるのでは…」と疑ってみることが大切です。原因と考えられる病気がないのに、<疲れやすい><体重増あるいは体重減が激しい><集中力が続かない><やる気が起きない>など体調不良が続いていて、過去に大きなけがや病気を患ったことのある方、大手術・難手術の治療歴がある方は一度、内分泌疾患の診療を専門とする医師に相談することをお勧めします。
病ではなく、人を診ること、そして、患者さんの生活の質を向上させることを大切にしています。患者さんのお話をよく聞き、何よりも分かりやすい説明を心掛けています。患者さんとの信頼関係を築くこと。当科の治療はそこから始まります。診察後には「安心した」「来てよかった」といってもらえるような診療を目指しています。
人生100年時代といわれる現代。医療の進歩によってがんも種類によっては治る病気となった今、平均寿命より、介護を受けたり寝たきりになったりせずに生活できる「健康寿命」の延伸に意識をシフトしていく必要があります。男女ともに平均寿命と健康寿命との間に差がみられ(男性は8.84年、女性は12.35年 ※令和2年版 厚生労働白書より)、この差は日常生活に制限のある期間と言い換えることができ、それをいかに短くできるかが生活の質を保つ意味でも重要になってきます。糖尿病などの生活習慣病、そして、心身の健康を維持するために重要な役割を果たしているホルモンの異常は、確実に健康寿命を縮めます。当科の目標は、これまで積み重ねてきた知識とデータ、技術を駆使し、最新の検査や治療を取り入れながら、健康寿命の延伸を見据えた糖尿病・内分泌疾患の予防、治療と管理を提供することです。
※文中に記載の組織名・所属・肩書・内容などは、すべて2021年7月時点(インタビュー時点)のものです。
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