DOCTOR INTERVIEWドクターインタビュー


人生100年時代、
生涯を通じて豊かで安心できる生活をサポート

整形外科ドクターインタビュー

整形外科部長・リハビリセンター長 井上 雅之

    

 自立して日常生活を送ることができる「健康寿命」が伸びています。ただし、「平均寿命」との開きは、男性が約9年、女性は約12年あります。この原因は何かというと、じつは関節疾患や骨折など、整形外科領域の病気が大きな部分を占めています。3大疾病のがんや心筋梗塞、脳卒中よりも大きい要素となっています。「人生100年時代」を迎え、課題となるのは、整形外科疾患を予防し、動ける体や歩ける脚を保ち続けることです。また、日本のサッカー、バスケットボール、野球などが国際的に活躍しており、スポーツへの関心が老若男女を問わず高まっています。スポーツを行うことは心身育成や健康寿命の増進というメリットがある反面、スポーツによる傷害の件数も増加しています。今後さらに高齢化が加速していく中、整形外科が果たす役割はますます大きくなっていくことが予想されます。
 「広く、深く」そして「安心、安全」をモットーに、患者さん一人ひとりに寄り添った整形外科医療の提供に努める同科の取り組みや、日々の診療に対する思い、中高年に多い膝(ひざ)の痛みについてなど、日本整形外科学会認定整形外科専門医、プロバスケットボールチーム「レバンガ北海道」のチームドクターを務める井上雅之整形外科部長にお話を伺いました。

※厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト 「e-ネット」 平均寿命と健康寿命から引用


整形外科では、どういった診療を行っていますか?

 診療の対象は、中高年世代の膝や股関節、腰、肩、肘、手の痛みや、スポーツによるねんざ、打撲、骨折といったスポーツ傷害、関節リウマチなど、守備範囲はとても広いです。診断から保存治療・手術治療、そして社会復帰やスポーツ復帰のためのリハビリテーションまで一貫して担います。小児・学童から成人、高齢者まですべての年齢層が対象になり、その困り事、悩み事は多様で、治療を必要とする患者さんの数は非常に多いです。
 当科では整形外科領域のさまざまな疾患に対し、膝関節、股関節、上肢(肘、手)、外傷など部位・分野別にそれぞれの専門医が診療する体制を整え、質の高い整形外科医療の実践に努めています。専門性が高い医療を提供することはもちろん大切ですが、同時に、私たちは「思いやり」や「癒し」の心、精神を忘れず、温かみのある整形外科医療を心掛けています。整形外科の病気は、直接命にかかわることこそ少ないですが、身体が思うようにならず、日常生活に支障が出ることもあります。重症例は寝たきりとなり、認知症や肺炎となり、命へも影響を及ぼす事もあります。人間の生活は「動く」ことが基本ですから、思うように動けなければ生活の質が落ちてしまいます。そうした患者さんが、再び心地よく身体を動かし、仕事やスポーツに励み、いきいきとした毎日が送れるようサポートすることが、私たち整形外科医の使命です。看護師、リハビリテーションを担当する理学療法士が患者さんと二人三脚で歩み、生活の質を上げる支えとなりたいという思いで診療にあたっています。
 当科の患者さんには、糖尿病や高血圧症、脂質異常症といった生活習慣病のほか、心臓や肺、腎臓などに複数の合併症を抱えている高齢の方がたくさんいらっしゃいます。当院には多くの診療科が揃っているため、このような患者さんに対して外来・入院中も治療・管理を継続して行うことが可能です。放射線診断科との連携も非常に密で、レントゲン、CT、MRIなど充実した検査機器で多様化する検査需要に柔軟に対応しており、迅速かつ正確な診断につながっています。術前・術後の疼痛管理や、検査でも異常が見つからない慢性痛には、麻酔科等と連携し、可能な限り患者さんの痛みを軽減するよう工夫しています。
 総合病院ならではの診療科の枠を超えた風通しの良さ、ネットワーク(連携)の広さ、小回りのきくフットワークの軽さが、当科の強みだと思っています。


リハビリテーションにも注力されていますね。

 手術・治療とリハビリは、整形外科医療の両輪です。早期の社会・仕事復帰やスポーツ復帰、再発防止を目指すには、患部の機能回復はもちろん、全身のバランス能力の改善などを指導するリハビリがとても重要です。難しい手術が成功しても、術後に質の高い、十分な量のリハビリが提供されなければ、その治療効果を最大限に引き出すことはできません。もっというなら、治療効果は半減するといっても過言ではありません。私は患者さんによく「手術半分、リハビリ半分」とお伝えし、当院に入院してリハビリに取り組んだり、通院してリハビリを継続したりできないなら、自宅近くで通いやすい整形外科で手術をした方がいいとお勧めすることさえあります。それぐらい、整形外科の治療においてリハビリは重要であることを皆さんに知っていただきたいです。
 広々としたリハビリセンターには、リハビリ機器、トレーニング機器が揃い、経験豊富な理学療法士が常駐しています。患者さん個々の目標を設定し、オーダーメードのプログラム・スケジュールを立てていきます。


高齢の方やスポーツをしている方など、膝が痛いという悩みを抱えている方が少なくないです。膝が痛む主な原因は何ですか?

 中高年の方が膝の痛みを訴える場合、最も頻度が高いのは「変形性膝関節症」です。膝関節は、太ももの骨(大腿骨)とすねの骨(脛骨)、そして膝の前の骨(膝蓋骨)で構成されています。骨の間には、クッションの役割を果たしている軟骨や半月板があり、骨をつなぎ合わせている靭帯が膝関節を安定に保っています。変形性膝関節症は、何らかの原因で軟骨や半月板がすり減り、関節内に炎症が起きたり、関節が変形したりして痛みが生じる病気です。関節の中に膝を壊すたんぱく質が発生し、さらに膝を壊していくという悪循環をもたらします。加齢や肥満、重労働などによる過度の負担などが原因とされ、特に女性に多くみられます。
 立ち上がりや歩き始めなど、動作時に痛みや引っかかりが生じるのが、初期症状です。進行すると動くたびに痛くなり、さらに悪化するとじっとしていても痛みを感じ、膝がO脚に変形するなどして日常生活が困難になってきます。
 動作時に痛みや違和感を覚えたら、一度整形外科を受診されることをお勧めします。初期の段階で受診いただけると、治療の選択肢が広がります。痛みが慢性的に続いたり、寝ている時も痛みを感じたりするようであれば、早急の治療が必要です。


変形性膝関節症の治療について教えてください。

 治療は、痛みの軽減や症状の進行の抑制を目標とする手術をしない「保存療法」と、痛みの原因を根本的に取り除こうとする「手術療法」があります。
 多くの患者さんは、減量など生活習慣を改善するための生活指導や鎮痛剤、湿布などの薬物療法、ヒアルロン酸の関節内注射、筋トレなどの運動療法、O脚矯正を目指す足底板を装着する装具療法などの保存療法がまず行われます。保存療法で痛みが軽減されず、日常生活に不便を感じるようであれば、手術療法が考慮されます。手術療法の最大のメリットは、一度手術を受けて回復すると、痛みをほとんど忘れて生活できる可能性が高いことです。
 手術はいくつか種類があり、患者さんの年齢や既往歴、活動性、病状の程度、希望するライフスタイルなどを総合的に考慮した上で、あらためて手術するかどうかも含め、その患者さんに最も適した手術・治療を行います。一般的に、症状が軽度〜中程度であれば「骨切り術」が、重度であれば「人工関節置換術」が行われます。
 骨切り術は、すねの骨の一部を切り、O脚を矯正してややX脚にすることで、膝の内側にかかりすぎていた負担(体重)を外側に分散させる手術です。自分の関節(軟骨や半月板など)を温存することができるので、比較的侵襲が少なく、他の手術法と比較して術後の日常生活に対する制限が少ないのが利点です。人工関節置換術は、変形して広範囲に傷んだ関節の骨の表面を取り除き、金属とポリエチレンでできた人工関節に置き換える手術です。人工関節の耐久性は向上しているものの、15年〜20年程度で入れ替えが必要とされるケースもあります。人工関節は最後の手段、最終の選択肢として残し、できるだけ自身の関節を温存することを優先した治療方針を立てるようにしています。


手術を受けるタイミングなど、治療選択についてアドバイスをお願いします。

 膝という部位や、変形性膝関節症という病気に限らず、手術のタイミングや手術方法・治療方法は、単にレントゲンやCT、MRIなどの画像検査で患部の状態をみただけで決めることではありません。そんなに単純なものではないのです。例えば、さまざまな画像検査からある患者さんの変形性膝関節症の病状の程度が末期だと診断できたとします。画像のみをみて診断するなら、どんな整形外科医も手術を勧めるでしょう。ところがその患者さんがわずかな痛みしか感じておらず、生活に支障を来していないとしたら、手術する必要はあるでしょうか。また、患者さんがどんな治療や生活を希望するかをセットで判断するとなると、答えは多岐にわたります。
 痛みの感じ方は人それぞれです。また、治療に何を求め、今後どういった生活を望んでいるかなどもじっくり話し合う必要があります。その上で、患者さん一人ひとりの状態と要望に合った治療方法や治療のタイミングを見つけることが重要です。
 何が患者さんにとって最善なのか、一概に判断することは大変難しいことです。そうだとしても、私は治療の手段となる引き出しをたくさん持って、患者さんに可能な限りの治療の選択肢を提案できることが、病院としても整形外科医としても重要だと考えています。


変形性膝関節症の新しい治療法として、再生医療の一つである「PRP療法」を導入していますね。

 従来の保存療法と手術療法の間に位置する、保存治療の新しい選択肢として「PRP療法」があります。当科では2022年4月から導入しています。保険適用外の治療で、当科では3回の注射が基本コースで、費用は55,000円(税込)/1回です。自費診療なので治療費は医療機関によって異なります。
 治療は自分の血液中の多血小板血漿(PRP)を取り出し、濃縮させたものを膝関節内や腱、靱帯の損傷部分に注射します。PRPには炎症抑制や自己修復に必要な細胞の増殖促進、コラーゲンの産生促進といった作用があり、損傷した関節の修復・再生が期待できます。「仕事や家庭の都合で、手術による入院ができない」「もうしばらく、手術せずになんとかしたい」といった患者さんには有用な選択肢になり得ます。当科で、この治療を受けた数例の中には、非常に高い効果を得られた方もいらっしゃいましたが、一方で、期待していた効果を得られなかった患者さんも一定数おられました。治療を受ける前に医師とよく相談し、治療のメリットだけでなく、治療効果に個人差があることや処置部位の腫れや痛みが出ることもあるなど、デメリットもよく理解しておくことが大切です。


小学生のころからスポーツに打ち込む子どもが増え、スポーツ傷害が目立っていると聞きますが。

 当科には、クラブ活動・部活動に参加する小中高大学生から、バスケットボールやサッカー、スキーをはじめさまざまな競技のトップアスリート、プロ選手、そして、趣味や健康増進でスポーツを楽しむ中高年の方々まで、多くのスポーツ競技者・愛好家が来院されます。スポーツをしている若い人は、練習や試合での激しいプレーなどで膝に大きな負担がかかり、膝の靭帯や半月板などを損傷してしまったというものが多く、症状や病名は多岐にわたります。
 私自身、幼い頃からスポーツが好きで、自然と整形外科を志したということもあって、スポーツドクターとしてプロバスケットボール「レバンガ北海道」のチームドクターも務めています。スポーツドクターとして大切なのは、ただ治ればいいというわけでなく、目標とする試合などがある期日までに復帰できるように、かつ、より高いパフォーマンスが出せるようサポートしていくことです。同じけがでもスポーツの種類、競技者の性格や目指すアスリート像などによって治療・手術法、リハビリのやり方を変えたりするケースもあります。また、元通りに体が動かせるようになったら、リハビリや予防などを通して再発しない体づくりを指導し、その人らしく長きにわたって競技やスポーツに取り組んでいけるよう、好きな競技・スポーツから離脱させないよう必要な時に介入していくことです。
 子どもは、成長期にあるため、運動やスポーツによって大きな負担がかかると骨や関節に傷害を起こしやすいです。ところが、子どもは痛くても「レギュラーを取られてしまう…」「大きな大会に出られなくなる…」などと思い、保護者にも指導者にも相談せず、休みもせず、病院にも行かず、競技を続けてしまいがちです。そして、スポーツができなくなるほど重症化して初めて来院するケースが多いです。子どもが自ら予防するのは難しいので、保護者や指導者がしっかりみていてあげないといけません。どうか子どもの症状を見逃さないでください。指導者の皆さんも、練習中や試合中、子どもがけがをした際、自己判断で「放っておいても大丈夫だろう」「2、3日すれば治るはず」と考えず、スポーツドクターのいる整形外科を受診させ、検査を受けさせてください。


最後に読者へのメッセージをお願いします。

 日本人の平均寿命は年々延びていますが、肝心なのは介護などを受けずに、健康で自立した生活が遅れる「健康寿命」を延ばすことです。そのためのカギとなるのは、いつまでも自分の脚で歩けることです。ひざの痛みを「年だから」とあきらめたり、「仕方ない」と我慢したりせず、整形外科を受診し、一度、自分の膝がどのような状態なのか確かめてみてください。その心掛けが、将来の膝を守ることにつながります。
 もちろん膝に限らず、股関節、腰、肩、肘などに少しでも痛みや違和感、「何かおかしい」と不安を感じたなら放っておかず、早めに整形外科で診察を受けるようにしてください。整形外科疾患もがんなど他の病気と同様に、早期発見・早期治療が何よりも重要で、治療の幅も広がりますし、治療開始が早ければ早いほど回復や改善など治療効果が見込めます。
 当科は今後も「患者さんファースト」を徹底し、「一刻も早く痛みを取り除きたい」「手術を受けるのは避けたい」など多様なニーズを持つ患者さん一人ひとりの思いに寄り添い、患者さんに心から理解・納得していただける整形外科医療の提供に力を尽くしたいです。

※文中に記載の組織名・所属・肩書・内容などは、すべて2023年10月時点(インタビュー時点)のものです。

    

         

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