DOCTOR INTERVIEWドクターインタビュー


幅広い疾患に対応
男性不妊症の治療にも積極的

泌尿器科部長 伊藤 直樹

 

 2020年12月現在、泌尿器科を担当する医師4人が1日約50.6人の外来患者、年間約13,446人(2019年度)の新患の診療にあたり、「専門性の高い良質な医療を提供する」という同院の理念を守りながら、泌尿器科疾患全般に常に最先端の診療に取り組むよう努めています。
 同院が実践する泌尿器科医療の特色、日々の診療に対する思いなど、日本生殖医学会認定生殖医療専門医の資格を有する伊藤直樹泌尿器科部長にお話を伺いました。

泌尿器科ってどんな診療科ですか?

 泌尿器科は、主に腎臓、尿管、膀胱、尿道などの尿路系、副腎などの内分泌系、また前立腺、精巣(睾丸)など男性生殖器について診療、研究を行う診療科です。
 ところで、皆さんが思っている泌尿器科はどんなイメージでしょうか。一般的には「恥ずかしい」「痛そう」「怖い」など、できればかかりたくない科と思われているようです。女性ならなおさら受診することを秘密にしたいくらいかもしれません。例えば、頻尿や残尿感などが主症状の前立腺肥大症は、高齢になると誰でもかかる可能性のある病気ですし、尿もれや膀胱炎などは男性よりも女性の方がかかる可能性の高い、身近な病気です。にもかかわらず、誰に相談していいか分からず一人で悩んでいる方が多いのが現状です。泌尿器科疾患の多くは、軽度のうちに受診をし、適切な治療を行えば進行を止めるだけでなく完治も見込めます。
 おしっこのこと、男性が性のことで困ったら、恥ずかしいと我慢せず、また年のせいとあきらめず、どうぞお気軽に泌尿器科へご相談ください。

どういった診療を行っていますか?

 当科では、われわれを頼ってきた、困っている患者さんをできる限り「断らない」という理念を掲げています。救急搬送や、他の医療機関から紹介された難症例を含め、診療を求められたら断らないことを原則とし、迅速で的確な医療を提供できるよう工夫しています。当科で扱っている病気は多岐にわたり、泌尿器がん、前立腺疾患、尿路結石症、尿路感染症、腎機能障害、性機能障害(ED)、男性更年期障害、過活動膀胱、骨盤臓器脱、そして、男性不妊症(男性精巣機能障害)などに対して、患者さん一人ひとりのライフスタイルや要望に合わせたオーダーメードの医療の提供を目指しています。

検査について教えてください。

 泌尿器科では「どんな検査をされるのか不安」という方も多いでしょう。一般的には、まず問診で症状を詳しく聞き取ります。膀胱など下部尿路の異常なのか、腎臓機能など上部尿路がかかわっているものなのかは問診内容から推測することができます。次に、診断を確定させるために検査を行います。腹部超音波やCT撮影などによる画像検査のほか、腎臓機能を調べるために採尿検査や採血検査を行う場合もあります。医学や医療技術の進歩とともに診断に必要な検査もより簡単で侵襲の少ないものになってきています。当科の方針の一つとして、道内各地、遠方から受診される患者さんも多いので、可能な限りその日のうちに検査結果を伝え、来院当日に診断から治療開始まで行うよう努め、通院にかかる精神的・時間的・経済的な負担の軽減を図っています。

どういうことを心掛けて診療にあたっていますか?

 当科では、病状やリスクなどについて治療前に患者さんが納得いくまで分かりやすい言葉で説明することを徹底しています。病気だけを診るのではなく、「病気を持った人を診る」というのが私のモットー。目の前の患者さんが自分の家族ならどのような医療を受けさせたいか、患者さんやそのご家族にとって最良・最善の治療は何かを考えた「過不足のない提案」を心掛けています。

治療について教えてください。

 専門性と先進性を兼ね備えた、高水準の「広く深い」治療の提供を目指していますが、その中でも「低侵襲治療」は大きなテーマです。あらゆる面で患者さんにやさしい医療、リスクや苦痛を限りなく少なくした医療を追求しています。その試みの一つが2017年に導入した手術支援ロボット「ダヴィンチ」です。

 ダヴィンチを用いることにより、より繊細な手技が可能となり、血管や神経を温存できる利点があります。例えば、前立腺がんの手術では、尿失禁や性機能障害の回復も早まります。術後のQOL(生活の質)を維持する上で、ダヴィンチの果たす役割は非常に大きいと思います。

 そのほか、前立腺内に金マーカー(目印)を挿入することで、がんの動きに合わせてミリ単位で精密な照射が可能になった放射線治療、尿路結石症に対する体の外から衝撃波を加えて結石を砕く治療法や、より体に負担の少ないホルミウムレーザーを使って結石を砕く治療法を導入するなど、あらゆる治療で低侵襲化を推し進めています。

男性不妊症の治療が進歩的な取り組みとして注目を集めていますね。

  一般に、妊娠を望みながら1年間、避妊せずに性生活を続けても妊娠しない場合を「不妊症」と定義しています。不妊の原因は女性というのは誤った思い込みで、世界保健機構(WHO)の調査では、不妊の原因が男性のみの場合が24%、男女両方にある場合は24%で、約半分の不妊のカップルに男性に何らかの原因があるとされています。

 原因として、精液中に精子がない「無精子症」、数が少ない「乏精子症」、精子の運動量の少ない「精子無力症」などがあります。無精子症は約250人に1人とされ、無精子症全体の8割が精巣で精子がつくられない非閉塞性で、残りは、精子は正常につくられるが精子の通り道がふさがっている閉塞性です。乏精子症の原因で最も多いのが「精索静脈瘤」。精巣から出る静脈の弁機能が悪いため、静脈血が精巣に向かって逆流し、精巣の少し頭寄りの部分の血管がこぶ状に腫れた状態を指します。精索静脈瘤になると、精巣の温度が上がり、精子の能力が低くなって受精しにくくなり不妊になります。

 当科では、無精子症に対する精巣内精子採取、精索静脈瘤の手術を年間約40~80件以上実施しています。男性不妊の患者さんを治療することによって、体外受精を行わないで妊娠・出産の成功するカップルもたくさんいらっしゃいます。これまで検査や治療は婦人科が中心でしたが、男性が初期から受診することで、女性の検査の身体的負担や治療の経済的負担の軽減につながります。
 不妊の原因の半数が男性にあり、2泊3日程度の入院で十分に治療可能なものであることが周知されておらず、治療機会を逃していたり、治療をあきらめてしまったりするケースが少なくありません。不妊症は女性の病気と考えるのではなく、カップルの病気と考えて、男性も勇気をもって受診してもらいたいです。

 泌尿器科の医師で不妊治療を目指す医師が全国的に少ないことは大きな課題です。男性不妊症への理解が広まり、治療に取り組むカップルを今以上に手厚くサポートできる社会になるよう、医療従事者も含め、生殖医療の啓発・普及を進めていくことが重要だと思います。

最後に読者にメッセージをお願いします。

 男性不妊症も含め泌尿器科の疾患は、悩みを抱えながら受診をためらっている方が多いです。勇気を出して来てくださった患者さんが、適切な治療によって病を乗り越えた時、「治療してよかった!」と心からの笑顔を見せてくれます。患者さんのそうした姿を見ることがわれわれの何よりのやりがいであり、喜びです。どんな小さな悩みでも、気軽にご相談ください。

※文中に記載の組織名・所属・肩書・内容などは、すべて2021年1月時点(インタビュー時点)のものです。

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